管理組合の教科書

区分所有者の所在不明・空き家化への対応|2026年4月施行の区分所有法改正と管理組合の実務

最終更新: 2026年7月10日

区分所有者の高齢化や相続の放置が進むなか、住民票の届出住所に連絡がつかない「所在不明」の住戸や、実質的に使われていない「空き家化」した住戸が増えています。所在不明の状態が続くと、管理費・修繕積立金が徴収できないだけでなく、総会決議や緊急時の対応にも支障が出ます。2026年4月には区分所有法が改正され、所在不明の区分所有者を決議の母数から除外できる制度が新設されました。管理組合が確認しておきたい探索の進め方と制度の内容を整理します。

結論

所在不明・空き家化した住戸は、管理費等の未収だけでなく、総会決議の定足数不足や緊急時の立入対応の遅れなど、管理組合の運営全体に影響します。標準管理規約は区分所有者に対して管理組合への届出義務を課しており、まずはこれに基づいて住民票・戸籍等の公的記録を調査し、届出義務の履行を求めることが基本の対応です。それでも所在が判明しない場合は、民法上の所有者不明建物管理制度等により裁判所に財産管理人の選任を申し立てる方法があります。さらに2026年4月1日施行の改正区分所有法により、裁判所の認定を受けた所在不明区分所有者は総会決議の母数から除外できる制度が新設され、決議が事実上進められなくなる事態への対応策が整いました。日頃からの名簿整備と早期の探索着手が、事態が深刻化する前の最も実務的な予防策です。

所在不明・空き家化した住戸が引き起こす問題

所在不明の区分所有者からは総会招集通知が届かず、管理費・修繕積立金の請求書も宛先不明で戻ってきます。督促や滞納処分の手続きを進めようにも本人に連絡が取れないため、未収金は積み上がる一方で他の区分所有者の負担が実質的に重くなります。また、総会の決議は区分所有者数・議決権数を分母として過半数や4分の3以上といった要件を満たす必要があるため、所在不明者が多いマンションでは決議そのものが成立しにくくなります。大規模修繕工事で専有部への立入りが必要な場合や、水漏れなど緊急時に室内対応が必要な場合にも、所在不明の住戸では協力を得られず対応が滞る点も実務上の大きな課題です。

まず行うこと|標準管理規約に基づく探索と届出義務の履行督促

マンション標準管理規約第31条は、区分所有者に対して氏名・連絡先等を管理組合に届け出る義務を定めています。連絡が取れなくなった住戸については、まずこの届出義務を根拠に、管理組合が保有する名簿情報(届出住所・緊急連絡先)を確認し、郵便物の転送状況や町内会・近隣住民からの情報も含めて現況を把握します。届出情報が古い、または届出自体がされていない場合は、住民票の写しや戸籍の附票の交付請求(正当な理由があれば管理組合も一定範囲で請求可能)により最新の住所を調査する方法が一般的です。これらの調査を尽くしても連絡が取れない場合に、次に述べる法的な手続きの検討に進みます。

所有者不明建物管理制度による財産管理人の選任

探索を尽くしても所有者が判明しない、または判明しても連絡が取れない場合、民法の所有者不明建物管理制度に基づき、利害関係人である管理組合が家庭裁判所に対して財産管理人の選任を申し立てることができます。選任された財産管理人は、対象住戸の保存行為(必要な修繕への同意等)や、管理費等の債務の履行を、所有者に代わって行う権限を持ちます。この手続きは所在不明の区分所有者が「存在すること」を前提に個々の住戸単位で財産を管理する制度であり、後述する2026年4月施行の決議母数除外制度とは別の枠組みである点に注意が必要です。両制度は併用が可能で、財産管理人選任と決議母数からの除外認定を並行して進める運用も想定されています。

2026年4月施行 改正区分所有法|決議母数からの除外制度

老朽化マンションの管理・再生の円滑化等を目的とした区分所有法等の改正により、2026年4月1日から、所在等が不明な区分所有者を総会決議の母数(区分所有者数・議決権数の算定基礎)から除外できる制度が施行されています。管理組合が、住民票や戸籍の附票の調査など公示送達に準じる程度の探索を尽くしたことを示したうえで裁判所に申立てを行い、裁判所が「所在等不明区分所有者」と認定すると、その区分所有者は以後の決議において母数に算入されなくなります。これにより、所在不明者の増加によって決議自体が成立しなくなるという事態を避けられるようになりました。ただし認定を受けるための調査には一定の手間と時間がかかるため、所在不明が判明した段階で早めに手続きに着手することが実務上重要です。

海外居住など「今後所在不明になり得る」区分所有者への備え

今回の改正では、区分所有者が国内に住所を持たない場合や、海外移住等により今後住所を有しなくなることが見込まれる場合に、あらかじめ国内管理人を選任しておく仕組みも整備されました。国内管理人は、当該区分所有者に代わって専有部分・共用部分の保存行為への対応や、総会での議決権行使、管理費等の支払いを行うことができます。区分所有者本人が生前・移住前に国内管理人を届け出ておければ、所在不明化を未然に防げるため、管理組合としては名簿更新の案内時にこの制度の周知を行うことも予防策の一つになります。

空き家化した住戸への日常的な備え

所在は把握できていても、長期間人の出入りがない空き家化した住戸は、水漏れや害虫発生などの異常に管理組合側が気づきにくいという別の問題を抱えます。管理規約や使用細則に長期不使用時の連絡先届出・緊急時の立入りに関する同意を盛り込んでおく、管理員による定期的な外観確認を委託業務に含めておくなど、所在不明とは別に「使われていない住戸」への日常的な備えも合わせて検討しておくと、異常の早期発見につながります。

誤解しやすい点

よくある質問

Q: 所在不明の区分所有者が1人いるだけでも、決議母数からの除外制度を利用したほうがよいですか。

A: 除外制度の利用は決議の成立に支障が出ている、または出る見込みがある場合に検討するのが一般的です。1人だけの所在不明であれば、まずは標準管理規約に基づく探索や督促を継続しつつ、決議への影響度を踏まえて手続きの要否を判断することになります。

Q: 財産管理人の選任と決議母数からの除外認定は、どちらを先に進めるべきですか。

A: どちらを優先すべきかは管理組合が抱える課題(未収金の回収を急ぐか、決議の成立を急ぐか)によって異なります。両制度は目的が異なり併用も想定されているため、具体的な進め方は弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。

Q: 所在不明の調査を管理組合自身で行うのは難しそうですが、専門家に依頼できますか。

A: 住民票・戸籍の附票の調査や裁判所への申立て準備は、弁護士やマンション管理士などの専門家に依頼して進める管理組合が一般的です。管理規約上の手続きと合わせて、早い段階で相談することをおすすめします。

まとめ

所在不明・空き家化した住戸は、管理費等の未収にとどまらず、総会決議の成立や緊急時対応にまで影響が及ぶ管理組合共通の課題です。標準管理規約に基づく届出義務の履行督促と公的記録の調査をまず行い、それでも解決しない場合は所有者不明建物管理制度による財産管理人の選任や、2026年4月施行の改正区分所有法による決議母数からの除外認定といった法的な手続きを検討します。所在不明が判明してから時間が経つほど調査・手続きの負担は増えるため、名簿の定期更新と早期着手を管理組合の運用ルールに組み込んでおくことが実務上の要点です。

この記事について 本記事は、区分所有者の所在不明・空き家化への対応と2026年4月施行の改正区分所有法に関する一般的な考え方を紹介する目的で作成しています。個別の探索方法・法的手続きの要否は管理組合ごとの事情によって異なるため、実際の検討にあたっては弁護士・マンション管理士等の専門家へ確認してください。
最終確認日: 2026年7月10日 / 参照: 改正区分所有法(所在等不明区分所有者に関する規定、2026年4月1日施行)、民法(所有者不明建物管理制度)、マンション標準管理規約第31条

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