管理組合の教科書

マンション管理組合の災害時意思決定体制|理事会が開けない場合の権限委譲と応急対応の決め方

最終更新: 2026年7月13日

防災訓練や備蓄品の準備は進めていても、「大地震で理事長と連絡が取れない」「理事会そのものが開けない」という事態を想定し、誰がどこまで判断してよいかを事前に決めている管理組合は多くありません。国土交通省も、標準管理規約には大規模災害等で組織的な意思決定ができないほどの緊急時への定めが不十分な面があると指摘しています。理事会が機能しない状況でも応急対応が止まらないよう、標準管理規約が示す緊急時の決定順位、理事長の応急的な修繕権限、権限委譲と安否確認体制の整備ポイントを整理します。

結論

標準管理規約は、災害等の緊急時における意思決定を「総会→理事会→理事長→あらかじめ定められた方法により選任された区分所有者等」という優先順位で整理しています。総会は開催が困難な場合が多いため、実務上のポイントは、理事会も開けないほどの緊急事態で理事長単独が保存行為や応急的な修繕行為を判断・実施できる旨を規約に明記しておくこと、その際の費用の限度額をあらかじめ定めておくこと、そして理事長も対応できない事態に備えて権限委譲の順位(副理事長・防災担当理事等への委譲)を決めておくことです。あわせて、安否確認の実施方法(担当エリア制・複数の確認手段の用意)と、要配慮者名簿の取り扱い(個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当し得るため本人同意が必要)を平時のうちに整備しておくことが、実際に災害が起きたときの対応速度を左右します。

なぜ「意思決定体制」を事前に決めておく必要があるか

災害時は、総会はもちろん理事会でさえも規約どおりに開催できず、緊急対応を決めなければならない場面に管理組合は直面します。理事長や理事会が「これは自分たちの判断で決めてよいことなのか」と躊躇しているあいだに、二次被害の拡大や住民の孤立が進んでしまうリスクがあります。実際、熊本地震の被災マンションでは、居住者の中の専門家が点検や応急修理の陣頭指揮を担った事例が報告される一方で、緊急時の決議についてあらかじめ規約に定めておくことの重要性が、その後の検証で繰り返し指摘されています。

被害が甚大で建物の復旧・建替え・解体まで議論が及ぶ場合には「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(被災マンション法)」が適用され、通常は全員同意が必要な事項が一定の多数決で決められるよう要件が緩和されることもあります。ただしこれは自治体による建物の「大規模一部滅失」等の被災認定を前提とする制度であり、平時から管理組合が備えておくべきなのは、あくまで発災直後・数日間の応急対応をどう回すかという実務レベルの体制です。

標準管理規約が定める緊急時の決定順位

標準管理規約第21条第6項は、理事長が災害等の緊急時においては総会・理事会の決議によらずに、敷地及び共用部分等の必要な保存行為を行うことができる旨を定めています。この考え方をもとに、実務上は次のような優先順位で意思決定を整理することが示されています。

ここで重要なのは、この優先順位そのものは標準管理規約のコメント等で示されている「考え方」であり、管理組合ごとの管理規約に明文化されていなければ実際には使えないという点です。自マンションの管理規約に第21条相当の緊急時条項があるか、あればどこまで理事長単独の判断を認めているかを、まず確認する必要があります。

理事長の応急的な修繕権限と費用限度額

理事長単独の判断で保存行為・応急的な修繕行為を実施できると規約で定める場合でも、金額の上限を決めていなければ、理事長は「どこまで支出してよいのか」の判断に迷うことになります。実務上は、次の2点をあわせて規約・細則に定めておくことが望ましいとされています。

限度額を定めていない管理組合では、応急対応そのものを規約に追記する改正を検討する余地があります。改正には総会の特別決議(区分所有者・議決権の各4分の3以上)が必要になるため、平時のうちに議案化しておくことが実務上のポイントです。

権限委譲のルール化

理事長が被災・不在・連絡不能となる可能性も踏まえ、発災時には必要な権限を理事長から代行者(副理事長・防災担当理事など)へ委譲できるようにしておくことが必要です。委譲のルール化にあたっては、次の点を整理しておきます。

安否確認体制と要配慮者名簿の整備

発災直後にまず必要になるのが、居住者の安否確認です。ばらばらに動くと確認漏れや二重対応が生じやすいため、あらかじめ次のような体制を決めておく管理組合が増えています。

居住者名簿・個人情報の管理体制そのものについては、区分所有者名簿の管理と個人情報保護で整理していますので、あわせて確認してください。2022年4月の法改正で管理組合も個人情報保護法の適用対象となっており、要配慮者名簿は特に取扱いに注意が必要です。

避難所運営との連携・在宅避難という選択肢

マンションは建物自体の耐震性が比較的高く、建物に大きな損傷がなければ、指定避難所に移動せず自宅にとどまる「在宅避難」が現実的な選択肢になる場合があります。在宅避難を前提にする場合、管理組合としては次の点を確認・準備しておく必要があります。

在宅避難ができるかどうかは建物の被災状況によって変わるため、「マンションだから避難所に行かなくてよい」と一律に決めつけず、発災後の点検結果を踏まえて判断する体制にしておくことが実務上のポイントです。

誤解しやすい点

よくある質問

Q: うちの管理規約に緊急時の理事長単独判断の規定がありません。今からでも整備すべきですか。

A: 規約に定めがない場合、災害時に理事長が単独で応急対応を判断する法的な根拠が明確でなくなります。総会の特別決議(区分所有者・議決権の各4分の3以上)による規約改正が必要になるため、平時のうちに議案化を検討することをお勧めします。管理会社・マンション管理士に相談のうえ、標準管理規約第21条を参考にした条文案を作成するのが実務上の進め方です。

Q: 費用の限度額はどのくらいに設定するのが一般的ですか。

A: 一律の相場はなく、マンションの規模・修繕積立金の残高・想定される応急工事の内容(漏水の緊急補修、設備の応急停止措置など)によって管理組合ごとに異なります。管理会社・設計コンサルタントに過去の応急対応事例の費用感を確認したうえで、理事会・総会で妥当な金額を検討してください。

Q: 要配慮者名簿を作る際、対象者から同意を得られなかった場合はどうすればよいですか。

A: 同意が得られない場合、その方の情報を名簿に含めることはできません。ただし、生命・身体の保護のために必要で本人の同意を得ることが困難な場合には、個人情報保護法上の例外規定に該当する可能性もあるため、具体的な運用は個人情報保護に詳しい専門家に確認することをお勧めします。

まとめ

災害時に管理組合の対応が止まらないようにするための要点は、標準管理規約が示す「総会→理事会→理事長→あらかじめ選任された区分所有者等」という決定順位を自マンションの規約に明文化すること、理事長単独判断の費用限度額と事後報告手続きを定めておくこと、理事長不在時の権限委譲順位を決めておくこと、そして担当エリア制と複数手段による安否確認体制・要配慮者名簿を平時のうちに整備しておくことです。規約の改正が必要な項目は総会の特別決議事項になるため、防災訓練の見直しとあわせて早めに議案化を検討することをお勧めします。

この記事について 本記事は、マンション管理組合の災害時意思決定体制の考え方を紹介する目的で作成しています。規約改正の要否、費用限度額の設定、要配慮者名簿の取扱いは、管理会社・マンション管理士、個人情報保護に詳しい専門家へ個別に確認してください。
最終確認日: 2026年7月13日 / 参照: 国土交通省「マンションの管理規約・細則等で定めておくべき事項」ほか公表情報

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