管理組合の教科書

マンション管理組合のBCP(事業継続計画)とは|防災マニュアルとの違いと策定の進め方

最終更新: 2026年7月14日

防災訓練を実施し、備蓄品も揃えている管理組合から「次はBCPを作った方がよいのか」という相談を受けることがあります。BCP(事業継続計画)という言葉は企業向けのイメージが強いためピンとこない理事も多いのですが、実際には管理組合にも当てはめて考える意味のある枠組みです。防災マニュアルや意思決定体制の整備との違い、策定の進め方を整理します。

結論

BCPは「発災直後に何をするか」だけでなく、「被災した状態からどう復旧し、いつまでに何を終えているべきか」という時間軸を持った計画である点が、単発の防災訓練や意思決定体制の整備と異なります。策定にあたっては、標準管理規約が定める専門委員会の仕組みを使って理事会の諮問機関を設け、建物・設備の実態調査と居住者アンケートから始めること、発災当日・数日以内・復旧段階という時間軸で対応項目を整理すること、居住して住む区分所有者と投資目的で所有する区分所有者とでは復旧への優先順位の感じ方が異なり得る点を踏まえて平時から合意形成を進めておくことが実務上の要点になります。

なぜ防災マニュアルだけでは足りないのか

多くの管理組合が既に取り組んでいる防災訓練・備蓄品の整備は、発災の瞬間から数時間の初動対応を主な対象にしています。これに対してBCPは、建物や共用部が実際に被災した後、区分所有者の生活と管理組合としての機能をどう継続・復旧させていくかという、初動より先の時間軸まで扱う点が異なります。マンション管理組合のBCPを扱った専門誌の解説では、居住者である区分所有者と居住していない区分所有者(投資目的所有者)とでは、修繕や復旧に対する優先順位の感じ方が異なりやすく、この立場の違いを踏まえた合意形成の枠組みを平時から持っておく必要があるとされています。防災訓練やハザードへの備えが「起きた瞬間にどう動くか」を扱うのに対し、BCPは「その後、管理組合としてどう意思決定し、どう復旧を進めるか」までを見据えた計画だと捉えると整理しやすくなります。

策定体制をどう作るか:検討委員会の設置と実態把握

BCPの策定は理事会だけで抱え込むと負担が大きくなりすぎるため、標準管理規約第55条が定める専門委員会の仕組みを使い、理事会の諮問機関としてBCP検討委員会を設置する進め方が実務上の定石とされています。検討委員会を立ち上げたら、まず自分たちのマンションの実態を把握することから始めます。具体的には、建物・設備の耐震性能や設備状況の調査に加えて、居住者へのアンケート調査を実施し、在宅避難が可能な世帯の割合、要配慮者の有無、勤務先の遠さといった、復旧計画の前提になる情報を集めます。検討の途中経過は理事会内で閉じず、広報誌などで区分所有者にも定期的に配布し、検討状況を可視化しておくことが、後の合意形成の負担を軽くします。

発災段階ごとに整理しておく項目

BCPでは、発災からの時間経過を区切って、それぞれの段階で何を判断し、誰が動くのかを整理しておきます。目安となる区切り方と主な検討項目は次のとおりです。

発災当日・3日以内の項目は、意思決定体制や安否確認の整備と重なる部分が多いため、具体的な権限委譲の順位や安否確認の手段については、既存の整備内容と重複しないようBCPの中では概要の位置づけにとどめ、詳細は個別の体制整備に委ねる形で整理すると分かりやすくなります。BCPで特に他の防災対策と重ならないのは、4日目以降の「復旧をどう進めるか」という段階の設計です。

区分所有者間の合意形成で気をつけること

復旧の進め方をめぐっては、実際にそのマンションに住んでいる区分所有者と、賃貸に出すなど投資目的で所有している区分所有者との間で、復旧のスピード感や費用負担への考え方に差が出やすいとされています。生活の場を失っている居住者は一日も早い復旧を望む一方、非居住の所有者にとっては費用負担や賃貸再開時期が主な関心事になりやすく、この立場の違いが復旧方針をめぐる合意形成を難しくする要因になります。BCPの検討委員会では、このような利益相反が起き得ることをあらかじめ想定し、平時のうちから被災リスクや修繕積立金の水準について区分所有者の共通理解を醸成しておくことが、発災後の合意形成をスムーズにすることにつながるとされています。検討の過程では、マンション管理士、弁護士、税理士といった専門家の支援を受けながら進めることが望ましいとされています。

損害保険の請求に備えて平時にしておくこと

BCPのもう一つの実務的な柱が、損害保険金の請求に迷わないための平時からの準備です。実際に被害が発生した際は、安全確保(止水・停電・立入禁止の措置)と消防・警察・管理会社への連絡を行った上で、被害の日時・場所・原因の推定・被害範囲を写真や動画で記録し、証券番号を添えて保険代理店・保険会社へできるだけ早く連絡する流れになります。特に水濡れ事故は原因の特定が保険金支払いの可否を左右しやすく、原因調査費用特約の適用有無も含めて早い段階での対応が重要です。復旧工事に着手する前に保険会社の事前承認が必要な項目がある点にも注意が必要です。また、保険金の請求権には時効があり、記録と書面管理を徹底しておくことが欠かせません。複数年契約の火災保険・マンション総合保険は、理事の交代が重なるうちに契約の存在自体が引き継がれずに埋もれてしまうことがあるため、契約台帳・証券の写し・特約一覧をBCPの資料の一部として保管し、理事交代のたびに引き継ぐ運用にしておくと安心です。共用部の損害保険そのものの選び方・補償内容は、別記事で扱う地震保険・火災保険の内容とあわせて確認してください。

誤解しやすい点

よくある質問

Q: BCPと防災マニュアルはどちらを先に作るべきですか。

A: 決まった順序はありませんが、多くの管理組合は防災訓練・備蓄品の整備や意思決定体制の明文化から着手し、その後BCPとして復旧段階までを含む計画に発展させています。既存の取組みがあるなら、それを土台にBCP検討委員会で足りない部分(復旧段階の整理、区分所有者間の合意形成、保険請求の準備)を補う進め方が現実的です。

Q: BCP検討委員会は誰が中心になって進めるべきですか。

A: 標準管理規約第55条の専門委員会として理事会の諮問機関に位置づけ、理事に加えて防災や建築、法務・税務に関心のある区分所有者を募る進め方が一般的です。必要に応じてマンション管理士等の専門家の支援を受けることも検討してください。

Q: 火災保険・マンション総合保険の契約内容を理事会で誰も把握していません。どうすればよいですか。

A: まずは管理会社に証券の写しの提供を依頼し、契約期間・補償内容・特約を確認したうえで、BCPの資料として理事交代時に必ず引き継ぐ書類の一覧に加えることをお勧めします。

まとめ

管理組合のBCPは、発災直後の初動を扱う防災訓練・備蓄品・意思決定体制の整備の先にある、「復旧をどう進め、いつまでに何を終えるか」を扱う計画です。標準管理規約の専門委員会の仕組みを使って検討委員会を設け、実態調査から始めて発災当日・数日以内・復旧段階という時間軸で項目を整理し、区分所有者間の合意形成と損害保険金請求への備えを平時から進めておくことが、実際の被災時に管理組合としての機能を止めないための土台になります。

この記事について 本記事は、マンション管理組合のBCP(事業継続計画)策定の一般的な考え方を紹介する目的で作成しています。検討体制の作り方、合意形成の進め方、保険金請求の実務は建物・契約内容ごとに異なるため、管理会社、マンション管理士、弁護士、税理士、保険代理店等の専門家へ個別に確認してください。
最終確認日: 2026年7月14日 / 参照: マンション標準管理規約(国土交通省)、専門誌解説記事ほか公表情報

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