管理組合の教科書

マンションの解散・敷地売却|建替えとは違う「終わらせる」選択肢と2026年4月施行の区分所有法改正

最終更新: 2026年7月11日

老朽化したマンションの将来を考えるとき、話題の中心はどうしても「建て替えるか、修繕を続けるか」になりがちです。しかし区分所有者の高齢化・資金負担への不安から、建て替えずに「マンションという仕組み自体を終わらせて、土地を売却する」という選択肢を検討する管理組合も出てきています。この「解散」に近い選択肢は、建て替え決議とは別の制度・決議要件で動くため、混同すると誤った前提で議論が進んでしまいます。既存の敷地売却制度と、2026年4月施行の改正区分所有法で新設された制度の違いを整理します。

結論

マンションを「終わらせる」方法には大きく3つの制度があります。①区分所有法の建替え決議(取り壊して新しい建物を建てる。区分所有者・議決権の各5分の4以上)、②マンション建替え円滑化法の敷地売却制度(特定行政庁から耐震性不足等で「要除却認定」を受けたマンション限定。建替えず建物を取り壊して敷地を売却する。決議要件は建替え決議と同じ各5分の4以上。2014年施行済みの既存制度)、③2026年4月1日施行の改正区分所有法で新設された建物取壊し決議・敷地売却決議(要除却認定を受けていない通常のマンションでも、建替えずに建物を取り壊す・敷地を売却することが多数決(原則各5分の4以上、耐震性不足等がある場合は4分の3、大規模災害の被災建物は3分の2に緩和)でできるようになる制度)です。改正前は、②の認定を受けられないマンションが建替えずに取り壊し・敷地売却をするには区分所有者全員の同意が必要で、一人でも反対すれば事実上進められませんでした。2026年4月の改正はこの「全員同意の壁」を多数決に置き換える点が実務上の最大の変化です。ただし対象となる決議要件・認定手続きは複雑で、自分のマンションがどの制度の対象になるかは管理会社・マンション管理士・弁護士への確認が前提になります。

「終わらせる」3つの選択肢の違い

制度内容決議要件(目安)対象
建替え決議(区分所有法62条)取り壊して新しい建物を建てる区分所有者・議決権 各5分の4以上すべてのマンション
敷地売却制度(円滑化法・既存)建替えず取り壊して敷地を売却各5分の4以上特定行政庁の「要除却認定」を受けたマンションのみ
建物取壊し決議・敷地売却決議(2026年4月施行・新設)建替えず取り壊す/敷地を売却する原則各5分の4以上(耐震性不足等は4分の3、大規模災害の被災建物は3分の2に緩和)要除却認定がない通常のマンションも対象

ポイントは、既存の②敷地売却制度が「耐震性不足等で行政の認定を受けたマンション」に限定されていたのに対し、2026年4月施行の③新制度はその認定がなくても、多数決だけで建替えずに取り壊し・敷地売却を進められるようになったことです。逆に言えば、2026年3月まで(改正前)は、認定を受けられない通常のマンションが建替えずに解体・売却したい場合、区分所有者全員の同意が必要で、実務上はほぼ実現困難でした。

改正前の「全員同意の壁」とは何だったか

区分所有法は、マンション(区分所有建物)を取り壊して新しい建物を建てる「建替え」については62条で5分の4以上の多数決を認めていますが、単に建物を取り壊すだけ、あるいは取り壊した上で敷地だけを売却する(新しい建物を建てない)ケースについては、明文の多数決規定がありませんでした。区分所有関係を解消して更地にする・敷地を売却するという行為は、区分所有者全員の共有物である敷地の処分に関わるため、原則として民法上の共有物処分と同様に区分所有者全員の同意が必要と解されていました。区分所有者が数十人〜数百人に及ぶマンションで全員の同意を得ることは実務上極めて困難で、老朽化が進んでも「建替えの資金負担には応じられないが、売却にも一人が反対して進まない」という膠着状態に陥りやすい点が、老朽化マンション対策の課題として指摘されてきました。

2026年4月施行の改正区分所有法による多数決化

令和7年(2025年)5月に公布され、令和8年(2026年)4月1日に施行される改正区分所有法では、この「全員同意の壁」を見直し、建物取壊し決議・敷地売却決議(建替えを伴わないもの)についても、集会の多数決で実施できる制度が新設されました。決議要件の目安は次のとおりです。

あわせて、所在が分からない区分所有者について裁判所の認定を受けて決議の母数(分母)から除外できる制度も新設されており(詳細は区分所有者の所在不明・空き家化への対応を参照)、連絡が取れない区分所有者がいることで決議自体が成立しないという事態への対応も進められています。ただし、これらの緩和要件(耐震性不足の認定基準、被災の程度の判定等)は個別のマンションの状況によって適用の可否が分かれるため、実際に検討する場合は特定行政庁・弁護士・マンション管理士への確認が前提になります。

建替え決議との関係・混同しやすい点

「マンションを終わらせる」議論をする際、建替え決議(新しい建物を建てる前提)と、取壊し・敷地売却決議(新しい建物を建てない前提)は目的も資金計画もまったく異なります。建替えは新築費用を区分所有者が負担する(あるいはデベロッパーとの等価交換等で負担を圧縮する)前提の話し合いになりますが、取壊し・敷地売却は住まいを手放して売却代金を分配する前提の話し合いになります。管理組合内でこの2つの選択肢を並行して検討する場合、どちらの制度・決議要件について議論しているのかを理事会・総会資料で明確に区別することが、合意形成の混乱を避けるうえで重要です。マンション建替えの賛否と管理組合の決議もあわせて確認してください。

実務上の注意点

誤解しやすい点

よくある質問

Q: うちのマンションが「要除却認定」を受けられるかはどこに確認すればいいですか。

A: 認定は建物が所在する自治体の特定行政庁(建築指導課等)が行います。耐震診断の結果等をもとに個別に判定されるため、まずは管理組合として耐震診断を実施したうえで自治体窓口に相談する流れになります。

Q: 全員同意が必要だった改正前に、取壊し・敷地売却で合意できた事例はないのですか。

A: 区分所有者数が少ない小規模なマンションや、老朽化への危機感が共有されているケースでは、全員同意による解散・売却の事例も存在します。ただし区分所有者数が多いマンションほど全員同意の達成は難しく、これが今回の法改正の背景にある課題とされています。

Q: 検討を始めるなら何から手を付ければいいですか。

A: 個別の資産・権利関係に関わる重い意思決定のため、理事会だけで進めず、早い段階でマンション管理士・弁護士・自治体窓口など外部の専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

まとめ

建て替えずにマンションを「終わらせる」選択肢には、既存の敷地売却制度(要除却認定マンション限定)と、2026年4月施行の改正区分所有法で新設された建物取壊し決議・敷地売却決議(要除却認定がなくても多数決で可能)の2つがあります。改正前は全員同意が原則だった取壊し・敷地売却が多数決化される点は老朽化マンション対策として大きな変化ですが、決議要件は依然として高く(原則各5分の4以上)、緩和要件の適用可否も個別判断が必要です。建替え決議との違いを区別したうえで、検討段階から専門家に相談しながら進めることが実務上のポイントです。

この記事について 本記事は、マンションの解散・敷地売却に関する制度の一般的な考え方を紹介する目的で作成しています。決議要件の緩和条件(耐震性不足の認定基準等)や個別マンションへの適用可否は個別の事情によって異なるため、実際の検討にあたっては特定行政庁・弁護士・マンション管理士への確認をおすすめします。
最終確認日: 2026年7月11日 / 参照: マンション建替え円滑化法・改正区分所有法(2026年4月1日施行)に関する複数の専門家解説記事

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