管理組合の教科書

マンション地下の浸水対策|電気室浸水による停電リスクと止水板・防水扉の決議要件

最終更新: 2026年7月13日

地下に電気室・機械室・駐車場があるマンションでは、地震や火災への備えとは別に、大雨による浸水対策を検討しておく必要があります。2019年の台風19号では、川崎市のタワーマンションで地下の電気設備が浸水し、停電・断水が長期間続く被害が発生しました。これを受けて国土交通省・経済産業省は電気設備の浸水対策ガイドラインを取りまとめています。管理組合として押さえておきたい浸水対策の考え方、止水板・防水扉設置の決議要件、火災保険の水災補償との関係を整理します。

結論

地下電気室の浸水対策は、大きく分けて「浸水を防ぐ設備対策」と「浸水後の被害を抑える運用対策」の2つです。設備対策の柱は止水板・防水扉の設置で、既存の開口部を塞ぐだけの軽微な設置であれば理事会決議・普通決議で対応できる場合が多い一方、建物の構造や外観に影響する大掛かりな工事になる場合は特別決議(区分所有法上の重大変更)が必要になることがあり、工事内容に応じて管理会社・設計コンサルタントに決議区分を確認する必要があります。運用対策としては、止水板・土のうの保管場所と設置手順の周知、排水口・雨どいの定期清掃、気象情報発信時の事前準備、住民への呼びかけ体制の整備が挙げられます。あわせて、火災保険の「水災」補償は保険会社ごとに支払い基準・免責金額が異なるため、加入中の火災保険の水災補償の有無と支払い条件を確認しておくことも実務上のポイントです。

地下電気室が浸水すると何が起きるか

2019年10月の台風19号では、多摩川の水位上昇に伴う内水氾濫により、川崎市のタワーマンションの地下3階にある電気設備が浸水し、機能不全に陥りました。この浸水により建物全体が停電し、給水ポンプが動かなくなったことで断水も発生し、エレベーターが使えない状態が長期間続きました。高層階の住民ほど階段での上り下りや水の運搬の負担が大きく、簡易トイレや飲料水の配布が必要になるなど、生活への影響が長期化した点が大きな課題として報告されています。

この事例が示すのは、浸水被害は「床上浸水で家財が濡れる」といった専有部の被害だけでなく、地下に集中しがちな電気設備・給水設備の機能停止を通じて建物全体・全住戸に影響が及ぶという点です。

国の浸水対策ガイドラインが示す対策

2019年の被害を受け、国土交通省と経済産業省は2020年6月に「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」を取りまとめました。ガイドラインが示す対策の考え方は、大きく次の3つに整理できます。

既存のマンションで大掛かりな設備移設まで行うのは現実的でないことが多いため、実務上は止水板・防水扉の設置と、非常用電源の確保・連絡体制の整備といった比較的取り組みやすい対策から検討するマンションが多いとされています。

止水板・防水扉設置の決議要件

止水板・防水扉の設置は、共用部分の変更にあたるため、工事の内容に応じて区分所有法上の決議区分を確認する必要があります。

実際にどちらの決議区分に該当するかは、工事の規模・建物の構造・設置箇所によって個別に異なるため、管理会社・設計コンサルタント、必要に応じて管理規約に詳しいマンション管理士に確認したうえで総会に諮ることが実務上の進め方になります。

脱着式止水板の運用で確認しておきたいこと

脱着式の止水板は、平時は取り外して保管し、豪雨・台風の接近時に設置する運用が一般的です。設置しておけば自動的に機能するものではないため、次の点を事前に確認・整備しておく必要があります。

設置訓練を防災訓練の一環として実施しているマンションもあり、地震を想定した訓練とあわせて水害を想定した訓練メニューを組み込む形で検討する管理組合が増えています。

日常的な備えと火災保険の水災補償

設備対策・止水板の運用とあわせて、日常的な備えとして次の点も確認しておきたいポイントです。

誤解しやすい点

よくある質問

Q: 止水板の設置は総会決議が必要ですか。

A: 工事の内容によります。既存の開口部に脱着式の止水板を設置する程度であれば理事会決議・普通決議で対応できる場合が多いとされますが、防水扉への交換など構造・外観に大きな変更を伴う場合は特別決議が必要になることがあります。管理会社・設計コンサルタントに工事内容を確認したうえで決議区分を判断してください。

Q: 浸水対策の費用は修繕積立金から支出できますか。

A: 一般的に、共用部分の維持・改良のための工事費用は修繕積立金の使途として想定されている場合が多いですが、管理規約の使途規定・長期修繕計画への位置づけによって扱いが異なります。管理規約・長期修繕計画を確認し、必要に応じて総会での使途変更決議を検討してください。

Q: 水災補償と水濡れ補償は両方入っておくべきですか。

A: マンションの立地(浸水想定区域内かどうか)・階数・地下設備の有無によって必要性は異なります。ハザードマップで自マンションの浸水想定を確認したうえで、保険代理店・保険会社に水災補償の要否を相談することが実務上の進め方です。

まとめ

地下に電気室・機械室があるマンションでは、2019年台風19号の事例が示すとおり、浸水による停電・断水が建物全体・長期間に及ぶリスクがあります。国の浸水対策ガイドラインが示す止水板・防水扉の設置は、工事内容に応じて理事会決議から特別決議まで決議区分が異なるため、管理会社・設計コンサルタントへの確認が必要です。あわせて、止水板の保管・設置手順の整備、排水設備の日常点検、火災保険の水災補償の内容確認まで含めて備えておくことが実務上の要点です。

この記事について 本記事は、マンション地下設備の浸水対策の考え方を紹介する目的で作成しています。止水板・防水扉設置の決議区分、火災保険の水災補償の内容は、管理会社・設計コンサルタント、加入中の保険会社へ個別に確認してください。
最終確認日: 2026年7月13日 / 参照: 国土交通省・経済産業省「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」(2020年6月)ほか公表情報

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