最終更新: 2026年7月10日
積雪地域のマンションでは、敷地内通路・駐車場・屋根といった共用部分の除雪をどこまで管理組合の業務とするか、費用をどの科目で賄うか、事故が起きたときに管理組合がどこまで責任を負うのかが、規約や契約に明記されないまま慣行で運用されているケースが目立ちます。除雪費用の負担の考え方と、落雪・転倒事故に備えて整理しておきたいポイントを整理します。
管理費は一般に共用部分の通常の維持管理費用に充てられるものであり、降雪量に応じて発生する除雪費用をどの科目でどこまで賄うかは、管理規約・使用細則・管理委託契約であらかじめ整理しておく必要があります。屋根からの落雪は民法717条の土地の工作物等の占有者・所有者の責任の枠組みで捉えられ、雪止めの未設置など対策の不備があれば管理組合が損害賠償責任を問われ得ます。また、駐車場等での日常の除雪を住民の自主対応に委ねている場合でも、仙台地裁は融雪剤の設置場所を周知するなどの転倒防止の安全配慮義務を怠ったとして管理組合に賠償を命じた事例があります(河北新報2022年1月25日報道)。除雪業者との契約形態(シーズン契約・スポット契約)を整理し、実施基準・役割分担・専有部分との境界を細則や契約書に明文化しておくことが、事故防止と紛争予防の両面での実務上の要点です。
共用部分(敷地内通路・駐車場・エントランス・屋根等)の除雪は、日常清掃と異なり降雪量や気象条件によって発生の頻度・規模が大きく変動します。管理規約や使用細則に除雪の実施基準が明記されていないマンションが多く、管理会社・管理員がどこまで対応するのか、バルコニー等の専有部分との境界をどう扱うのかが曖昧なまま、これまでの慣行に頼って運用されているケースが少なくありません。積雪が想定より多い年や、担当者・管理員が変わったタイミングでこの曖昧さが表面化し、トラブルの原因になりやすい点が実務上の課題です。
管理費は一般に、共用部分の通常の維持管理費用に充てられるものです。除雪のように降雪量に応じて発生する変動費用については、通常の管理費予算の枠内に含めて処理するのか、大雪時の臨時支出として別枠で予算化するのかを、あらかじめ総会で確認しておく必要があります。除雪業者との契約形態には大きく分けて、冬季間を通じて定額で待機・出動を依頼する「シーズン契約」と、積雪が生じた都度依頼する「スポット契約」の2種類があり、費用の見通しやすさと対応の迅速性のどちらを優先するかによって選択が変わります。契約前には、作業中に生じた設備・車両等の損傷に関する損害賠償の取り決めを確認し、複数社から見積もりを取って比較することが実務上のポイントです。
民法717条は、土地の工作物の設置・保存に瑕疵があり、それによって他人に損害が生じた場合、まず占有者が、占有者が損害の防止に必要な注意をしていたときは所有者が損害賠償責任を負うと定めています(土地の工作物責任)。マンションの屋根も「工作物」に含まれるため、雪止めの未設置や除雪の懈怠が瑕疵と評価されれば、屋根からの落雪で敷地外の通行人や駐車車両等に被害が生じた場合に、建物を管理する立場にある管理組合が責任を問われる可能性があります。屋根への雪止めの設置や、雪下ろし自体が不要な無落雪屋根への改修を検討するなど、事前の物理的対策を講じておくことが事故予防の基本になります。
仙台市内のマンションで、駐車場の日常の除雪が利用者の自主対応に委ねられていたところ、住民が自分の車に向かう際に凍結した路面で転倒し、大腿骨頸部を骨折した事案がありました。住民が管理組合に約260万円の損害賠償を求めた訴訟で、仙台地裁(佐藤久貴裁判官)は、車の出入りに支障があるほどの積雪ではなかったとして「管理組合が除雪・除氷の義務を負っていたとまでは言えない」と指摘しつつ、日常の除雪作業を利用者に委ねていたことを踏まえ、融雪剤の設置場所を示して使用を促すなどの転倒防止の安全配慮義務があったと認定し、管理組合に約50万円の支払いを命じました(河北新報2022年1月25日報道)。この判決は、除雪作業自体を住民の自主対応に委ねる運用そのものは直ちに違法ではないものの、管理組合が何の対策も講じていなければ安全配慮義務違反を問われ得ることを示す実務上参考になる事例です。
上記の判決が示すとおり、除雪を「住民の自主対応」に委ねる運用自体は禁止されていませんが、その場合でも管理組合として最低限の安全配慮(融雪剤の設置・注意喚起の掲示等)を講じているかが問われます。使用細則や管理委託契約に、①除雪の実施基準(対象となる降雪量の目安・対象範囲)、②管理組合・管理会社・住民それぞれの役割分担、③バルコニー等の専有部分の扱い、④大雪時の緊急連絡体制を明記しておくことで、事故発生時の責任の所在を整理しやすくなり、実際の事故予防にもつながります。
屋根への雪止めの設置や、雪下ろし自体が不要な無落雪屋根への葺き替えは、共用部分の形状・効用の著しい変更を伴う場合、区分所有法上の重大変更に該当し、特別多数決議が必要になることがあります。既存の屋根形状を維持する範囲の軽微な追加工事か、屋根全体の構造を変える大規模な改修かによって決議要件が変わるため、着手前に管理会社や設計事務所に工事内容を確認し、決議の区分を整理してから総会に諮ることが実務上の進め方になります。具体的にどちらの区分に該当するかは工事の内容・規模によって個別に判断が分かれるため、専門家への確認をおすすめします。
Q: 除雪費用は修繕積立金から支出してもよいですか。
A: 修繕積立金は将来の計画的な大規模修繕に充てることを前提に積み立てられているため、日常的・毎年発生する除雪費用の支出科目としては一般的ではありません。想定を超える大雪への臨時対応など特別な支出を検討する場合は、管理規約・総会決議に基づき使途を明確にしたうえで判断することになります。
Q: 除雪業者との契約はシーズン契約とスポット契約のどちらがよいですか。
A: 地域の積雪頻度、予算の見通しやすさ、出動までの迅速性のどちらを重視するかによって判断が分かれます。過去の積雪実績を踏まえ、複数社から見積もりを取って比較検討することをおすすめします。
Q: バルコニーなど専有部分の除雪は誰の負担になりますか。
A: 専有部分の使用・維持管理は原則として区分所有者自身の責任です。ただし落雪・転落等のリスクがある場合は、使用細則で除雪や退避のルールを定めているマンションもあるため、管理規約・使用細則の記載を確認することをおすすめします。
共用部の除雪は、費用負担の科目整理・除雪業者との契約形態の選択・事故発生時の責任の所在という3つの実務課題を伴います。屋根からの落雪は民法717条の工作物責任、駐車場等での転倒事故は安全配慮義務という異なる法的枠組みで捉えられますが、いずれも「事前に対策を講じていたか」が判断の分かれ目になる点は共通しています。除雪の実施基準・役割分担を使用細則や管理委託契約に明文化し、融雪剤の設置や注意喚起の掲示といった最低限の安全配慮を講じておくことが、事故予防と紛争予防の両面での実務上の要点です。
書式・テンプレートをすぐ使いたい方へ
理事会・総会・管理会社変更・修繕など実務で使えるWord書式10冊をまとめたセットをnoteで販売しています。