管理組合の教科書

マンション共用部のバリアフリー改修|スロープ・手すり設置とエレベーター後付けの決議要件

最終更新: 2026年7月10日

高齢の区分所有者が増えてきたマンションでは、「玄関前の段差にスロープを付けたい」「階段に手すりを増やしたい」「エレベーターがない棟に後付けできないか」といった相談が理事会に寄せられることがあります。バリアフリー改修は工事の内容によって共用部分の「軽微変更」か「重大変更」かが分かれ、必要な決議要件が大きく変わるため、検討を始める前に区分所有法上の位置づけを理事会で共有しておくことが実務上のポイントです。

結論

区分所有法上、共用部分の変更は建物の基本構造に手を加えない「軽微変更」(区分所有者及び議決権の各過半数の普通決議)と、構造を作り替える「重大変更」(原則として各4分の3以上の特別多数決議)に分かれます。階段へのスロープ併設や手すりの追加は一般に軽微変更として普通決議で対応できると考えられていますが、階段室の改造や外壁への外付けを伴うエレベーターの新設は重大変更にあたり特別多数決議が必要です。2026年4月1日施行の改正区分所有法により、バリアフリー化を目的とする重大変更の決議要件は4分の3以上から3分の2以上に緩和されました。工事の内容がどちらに該当するかは個別の建物構造によって判断が分かれるため、計画段階でマンション管理士・建築士等の専門家に確認することをおすすめします。

バリアフリー改修で検討される主な工事

共用部分のバリアフリー改修として理事会で検討されやすい工事には、エントランスや階段の段差解消(スロープ設置)、階段・廊下への手すり設置、共用トイレの改修、既存エレベーターのかご内手すり・自動ドア化などの改修、エレベーターがない棟への新規設置などがあります。同じ「バリアフリー改修」でも、既存の建物構造を壊さずに付加できる工事と、柱・壁・階段室など建物の基本構造部分に手を加える工事とでは、区分所有法上の扱いが異なる点が実務上の分かれ目になります。

「軽微変更」か「重大変更」かで決議要件が変わる

区分所有法第17条は、共用部分の変更のうち「その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」(軽微変更)は区分所有者及び議決権の各過半数の集会決議(規約でこの区分所有者の定数のみ過半数まで減じることが可能)で決するとし、それ以外の「著しい変更を伴うもの」(重大変更)は区分所有者及び議決権の各4分の3以上の特別多数決議が必要と定めています。国土交通省が示す一般的な考え方では、建物の基本的構造部分を取り壊す加工を伴わずに階段にスロープを併設し手すりを追加する工事は軽微変更(普通決議)で対応でき、階段室部分を改造したり建物の外壁に新たに外付けしたりしてエレベーターを設置する工事は重大変更(特別多数決議)にあたると整理されています。ただし実際にどちらに区分されるかは工事の規模・建物の構造によって判断が分かれるため、設計事務所や管理会社を通じて事前に確認しておくことが望まれます。

2026年4月施行の改正区分所有法でバリアフリー化の決議要件が緩和された

老朽化マンションの管理・再生の円滑化を目的とした改正区分所有法が2026年4月1日に施行され、共用部分の重大変更のうち、耐震性不足や給排水管の老朽化といった瑕疵の除去、およびエレベーターの新規設置などバリアフリー化に資する変更については、決議要件が原則の4分の3以上から3分の2以上に緩和されました。エレベーター後付けなど費用負担が大きく合意形成が難しかった重大変更について、この緩和によって決議のハードルが下がる管理組合があります。もっとも、区分所有者の定数を規約でどこまで緩和できるかなど細部の取り扱いは建物の管理規約や個別の改正条文の適用範囲によって異なるため、実際に決議を進める際は管理規約の現行の定めと合わせてマンション管理士・弁護士等の専門家に確認することをおすすめします。

エレベーターの後付けが難しい理由

エレベーターの後付けは決議要件だけでなく、実務上の制約も多い工事です。既存の躯体に穴を開けて昇降路を新設する場合は構造計算による安全性の確認が必要になり、外壁に外付けする場合は日影・採光など専有部への影響を受ける住戸への説明が必要になることがあります。また設置スペースの確保・工期中の生活動線への影響・多額の工事費用の負担方法(修繕積立金の取り崩しか一時金の徴収か)についても、総会での合意形成に時間がかかりやすい論点です。検討段階では設計事務所による現地調査を行い、構造上の制約と概算費用を理事会で共有したうえで住民説明会を重ねる進め方が一般的です。

補助金・融資制度の確認先

共用部分のバリアフリー改修に対する補助金制度は自治体ごとに有無・要件が異なり、全国一律の制度ではありません。検討する場合は管轄する市区町村の住宅政策課・高齢福祉課等の窓口で、当該年度に共同住宅の共用部バリアフリー改修を対象とした補助・助成制度があるかを確認するのが実務上の進め方です。また住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資など、共用部分の改修を対象とした融資制度を利用する管理組合もあります。なお個人が要介護認定を受けている場合に専有部(自宅内)の手すり設置や段差解消に使える介護保険の住宅改修費支給制度(支給限度基準額20万円、費用の7〜9割が保険給付)は共用部分の工事には使えない点に注意が必要です。

誤解しやすい点

よくある質問

Q: スロープの設置と手すりの追加は、それぞれ別に決議を取る必要がありますか。

A: 一体の工事として同じ総会議案にまとめて決議を取る運用が一般的です。ただし議案書には工事内容・費用・施工範囲を具体的に記載し、区分所有者が何に賛否を示しているのかが明確になるようにしておくことが望まれます。

Q: 一部の住戸だけがバリアフリー改修の恩恵を受ける場合、費用は全戸で負担する必要がありますか。

A: 共用部分の変更である以上、原則として管理費・修繕積立金など全戸で負担する会計から支出する取り扱いが一般的です。特定の住戸のみに著しく有利・不利益が生じる内容の場合は、区分所有法上「特別の影響」を受ける区分所有者の承諾が別途必要になることがあるため、内容によっては専門家に確認することをおすすめします。

Q: 賃貸に出している住戸のオーナーも決議に参加できますか。

A: 総会の議決権を持つのは区分所有者であり、賃借人ではありません。賃貸に出している住戸のオーナーは区分所有者として議決権行使書や委任状により決議に参加できます。

まとめ

共用部分のバリアフリー改修は、階段へのスロープ・手すり追加のような軽微変更であれば普通決議、エレベーター新設のような重大変更であれば特別多数決議が必要になり、工事内容によって求められる合意形成の水準が異なります。2026年4月施行の改正区分所有法により、バリアフリー化を目的とする重大変更の決議要件は4分の3以上から3分の2以上に緩和されました。検討を始める段階で工事内容がどちらに区分されるか、費用負担の方法、自治体の補助制度の有無を整理し、必要に応じてマンション管理士・建築士・弁護士等の専門家に確認しながら住民説明を進めることが実務上の要点です。

この記事について 本記事は、マンション共用部分のバリアフリー改修に関する一般的な考え方を、区分所有法および国土交通省の公表資料をもとに紹介する目的で作成しています。工事内容がどちらの決議区分にあたるかの判断や、管理規約への当てはめは建物ごとの事情によって異なるため、実際の検討にあたってはマンション管理士・建築士・弁護士等の専門家へ確認してください。
最終確認日: 2026年7月10日 / 参照: 区分所有法第17条(共用部分の変更)、2026年4月1日施行の改正区分所有法(共用部分の重大変更に係る決議要件の緩和)、国土交通省公表資料「マンション改修に関する区分所有法上等の手続き」

書式・テンプレートをすぐ使いたい方へ

理事会・総会・管理会社変更・修繕など実務で使えるWord書式10冊をまとめたセットをnoteで販売しています。

実務パック 全10冊セット(¥9,800・30%OFF)を見る

PR

管理組合の実務に役立つ書籍をAmazonで探す

Amazonで関連書籍を見る