最終更新: 2026年7月11日
「特定の住戸から異臭がする」「共用廊下にゴミが放置されている」という苦情は、高齢化が進むマンションで増えている相談のひとつです。単なる片付けの遅れの場合もあれば、いわゆるゴミ屋敷化が進んでいる場合、さらには孤独死が疑われる場合まで、原因によって初動対応がまったく異なります。感情的な対立や対応の遅れが二次被害(害虫・悪臭の拡散、建物の損傷)につながりやすいテーマのため、理事会があらかじめ対応の流れを共有しておくことが実務上のポイントです。
専有部からの異臭・ゴミの放置は、まず本人への連絡と事実確認から始め、管理組合が独断で室内に立ち入ることは原則できません。ただし、防災・衛生上の緊急性が高く本人と連絡が取れない場合は、管理規約・使用細則に定める緊急立入りの規定に基づいて対応を検討します(規定がない場合は整備を検討)。孤独死が疑われる場合は、まず警察への通報・安否確認を優先し、管理組合が独自に判断して踏み込む対応は避けます。特殊清掃等の費用は原則として本人または相続人の負担であり、相続放棄された場合は回収が難しくなる点もあらかじめ理解しておく必要があります。改善が見られない生活トラブルについては、区分所有法第57条(差止請求)・第58条(使用禁止請求)・第59条(競売請求)という段階的な法的手段が制度上存在しますが、いずれも裁判所の判断を要する重い手続きであり、個別の実行可否は弁護士等の専門家に相談しながら進める必要があります。
理事会に寄せられる相談は大きく2つに分かれます。ひとつは、居住者本人が存命で、片付けが行き届かないままゴミが室内・バルコニー・共用廊下にあふれ、異臭や害虫(ゴキブリ・ハエ等)の発生につながっているケースです。もうひとつは、居住者と連絡が取れない状態が続き、孤独死が疑われるケースです。前者は生活習慣や加齢・認知機能の低下、セルフネグレクト(自己放任)などが背景にあることが多く、後者は発見の遅れそのものが問題になります。どちらのケースかによって、管理組合が最初に取るべき行動は異なるため、苦情を受けた時点で状況の切り分けを意識することが重要です。
本人の在宅・安否が確認できている場合は、まず管理会社と連携して事実確認(臭気・害虫の発生状況、共用部への影響)を行い、本人へ口頭または書面で状況を伝えます。区分所有法第6条は「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」と定めており、ゴミの放置による著しい異臭や害虫発生は、この共同利益に反する行為に該当し得ます。ただし、管理組合が強制的に室内へ立ち入って片付けを行う権限は原則ないため、まずは本人の自主的な改善を求める書面通知から始め、改善が見られない場合は複数回の警告・理事会での対応記録の蓄積という段階を踏みます。高齢者本人に判断力の低下がうかがえる場合は、地域包括支援センターなど福祉の窓口と連携する対応も選択肢になります。
本人と長期間連絡が取れず、異臭や郵便物の滞留などから孤独死が疑われる場合、管理組合が単独で室内の状況を判断して踏み込むことは避け、警察への通報(安否確認)を優先するのが基本です。警察による確認の結果、死亡が確認された場合は、相続人への連絡、特殊清掃業者の手配(相続人または管理組合が窓口になって手配するケースがある)という流れに進みます。相続人が特定できない、または相続放棄された場合は、清掃・原状回復費用の回収が難航し、最終的に財産が国庫に帰属する手続きに委ねられることがあります。区分所有者が死亡した場合の管理費請求先・名義変更等の一般的な流れは別記事で整理していますので、あわせて確認してください。
国土交通省のマンション標準管理規約には、防災・衛生等のために緊急やむを得ないと認められるときは、管理組合が専有部分への立入りを請求できる旨の規定が置かれています。ただし、実際の立入りが認められる要件・手続き(事前の通知、承諾を得る努力、立会いの要否等)は各マンションの管理規約・使用細則の条文によって異なるため、緊急立入りを検討する段階で必ず自マンションの規約を確認する必要があります。緊急時の立入りに関する細則が未整備のマンションでは、高齢化の進行を踏まえてあらかじめ規定を整備しておくことが、孤独死等の緊急事態への備えとして有効とされています。規約の新設・変更には総会決議が必要なため、整備を検討する場合は理事会で早めに議題化することが望まれます。
生活トラブルとしてのゴミの放置・異臭が繰り返し注意しても改善しない場合、区分所有法は共同利益背反行為への段階的な措置を定めています。第57条は行為の停止等を求める差止請求で、裁判外・訴訟のいずれでも他の区分所有者または管理組合から請求できます。それでも改善しない悪質なケースでは、第58条の使用禁止請求(一定期間の専有部分の使用禁止を求める)、さらに第59条の競売請求(区分所有権そのものの競売を求める)という、より重い法的手段が制度上存在します。第58条・第59条の請求には集会での特別決議(区分所有者及び議決権の各4分の3以上)に加え、対象となる区分所有者に弁明の機会を与えることが要件とされており、いずれも実行のハードルは高く、最終的には裁判所の判断を要します。実行の可否・進め方は個別の事情によって大きく異なるため、弁護士等の専門家に相談しながら進めることが不可欠です。
Q: 専有部からの異臭に気づいたら、理事会はまず何をすればよいですか。
A: 管理会社と連携して臭気・害虫発生の状況や共用部への影響を確認し、本人の在宅・安否が確認できるかを把握します。安否が確認できる場合は書面での状況説明・改善依頼から始め、連絡が取れず緊急性が高い場合は警察への相談を検討します。
Q: 本人と連絡が取れない場合、管理組合の判断だけで専有部に立ち入ってよいですか。
A: 原則として管理規約・使用細則に定める緊急立入りの要件を満たす場合に限られます。規定がない、または要件の該当性が不明な場合は、独自の判断で踏み込まず、警察や管理会社と相談しながら進めることをおすすめします。
Q: 特殊清掃費用は誰が負担しますか。相続放棄された場合はどうなりますか。
A: 原則として本人または相続人の負担です。相続放棄された場合は請求先を失い、管理組合が費用を一時的に立て替えたうえで、最終的な財産の帰属先(国庫帰属手続き等)との調整が必要になるケースがあります。個別の回収方法は弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
専有部のゴミ屋敷化・異臭トラブルは、存命が確認できるケースと孤独死が疑われるケースとで初動がまったく異なります。前者は書面での改善要求と対応記録の蓄積、後者は警察への通報を優先し、管理組合が単独で踏み込まないことが基本です。緊急立入りの規約整備、区分所有法57条〜59条の段階的な法的手段の存在を理解しておくことは、いざというときの対応を遅らせないために役立ちます。個別の立入り可否・法的対応の要否は、弁護士・マンション管理士等の専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
書式・テンプレートをすぐ使いたい方へ
理事会・総会・管理会社変更・修繕など実務で使えるWord書式10冊をまとめたセットをnoteで販売しています。